家族信託の受託者が亡くなったら?後継受託者がいない場合の手続きと注意点
家族信託を活用して資産を管理している中で、「もし管理を任せている受託者が亡くなったら、信託財産はどうなるのだろう」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
家族信託において、管理や処分を担う受託者の存在は極めて重要です。万が一、個人の受託者が死亡した場合の手続きや、後継受託者が定められていない場合のリスクについて、法令に基づき分かりやすく解説します。
受託者が亡くなったときにまず確認すべきこと
受託者である個人が死亡した場合、信託法第56条に基づき、その受託者の任務は終了します。しかし、受託者が死亡したからといって、直ちに家族信託そのものが終了するわけではありません。
受託者が亡くなった際にまず確認すべきなのは、「信託契約書」の定めです。
ここで大切なポイントは、信託財産(不動産や信託口口座の預貯金など)は、亡くなった受託者自身の「個人の相続財産」とは明確に区別されている点です(信託財産の独立性)。そのため、受託者の相続人が信託財産を当然に「相続」して自分のものにするわけではありません。
まずは契約書を開き、後継受託者に関する条項がどのように記載されているかを確認しましょう。
信託契約に後継受託者の定めがある場合の手続き
信託契約の中に「受託者が死亡した場合は、〇〇を後継受託者とする」といった定めがある場合は、スムーズに次の体制へ移行できます。
新受託者への引き継ぎと相続人の役割
あらかじめ指定されていた後継受託者が就任を承諾することで、新たな受託者(新受託者)として信託財産の管理を引き継ぎます。
この際、亡くなった受託者の相続人は無関係になるわけではありません。信託法第60条により、前受託者の相続人等は、新受託者が信託事務を処理できるようになるまで、信託財産の保管や新受託者への引き継ぎを行う役割を担うとされています。
なお、受託者が複数選任されている契約の場合は、残された他の受託者がそのまま信託事務を行うケースもあるなど、契約内容によって扱いは異なります。
後継受託者がいない・就任できない場合のリスク
問題となるのは、信託契約に後継受託者の定めがない場合や、指定されていた人が辞退や高齢などを理由に就任できない場合です。
新受託者の選任方法(信託法第62条)
後継受託者の指定がない場合、信託法第62条に基づき、委託者と受益者の合意によって新たな受託者を選任することになります。委託者が既に亡くなっている場合や意思能力を失っている場合など、状況によっては家庭裁判所に対して新受託者の選任を申し立てる必要が生じることもあります。選任手続きは関係者の状況によって異なるため、常に一つの方法で解決できるとは限りません。
受託者不在による「1年」の信託終了リスク(信託法第163条第3号)
受託者が不在となった場合、最も注意しなければならないのが信託の終了リスクです。
信託法第163条第3号では、「受託者が欠けた場合において、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき」に信託が終了すると定めています。これは単に「死亡した日から1年」と一括りにできるものではなく、法律上「受託者が不在となった状態が解消されないまま1年が経過した時点」で信託が終了するという意味です。
信託が意図せず終了してしまうと、財産の管理体制が崩れてしまうため、迅速に新受託者を選任する手続きを進める必要があります。
不動産登記や金融機関での受託者変更手続き
新受託者が決定した後は、各種の名義変更・変更手続きを行います。
不動産登記(受託者変更登記)
信託財産に不動産が含まれている場合、法務局にて受託者の変更に伴う所有権移転登記(受託者変更の登記)申請を行う必要があります。登記簿上の受託者を亡くなった方から新受託者へと変更することで、第三者に対しても新たな受託者が正当な管理者であることを主張できるようになります。
金融機関での変更手続き
信託財産を管理していた金融機関の信託口口座についても、受託者交代の手続きを行います。新受託者の本人確認書類や信託契約書、登記事項証明書などを提出し、口座の名義変更や新たな口座への移管手続きを進めます。
生前に確認・対策しておきたい信託契約の内容
元法務省職員である司法書士 井関太一の実務的な視点からも、家族信託を組む際は「後継受託者」をあらかじめ指定しておくだけでなく、第二・第三の候補者まで定めておくことが極めて重要だと考えます。
人生には予期せぬ出来事がつきものです。すでに家族信託を設定されている方も、現在の契約内容で後継受託者が適切に指定されているか、万が一の際にスムーズに引き継げる記載になっているかを定期的に確認しておくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 受託者が亡くなると家族信託はすぐ終了しますか?
いいえ、受託者が亡くなったことだけで直ちに信託が終了するわけではありません。ただし、新しい受託者が決まらないまま不在の状態が1年間続くと、信託法に基づき信託が終了してしまいます。
Q2. 受託者の相続人が信託財産を相続しますか?
いいえ、信託財産は受託者個人の財産ではないため、受託者の相続人が相続によって取得することはありません。ただし、新受託者が就任するまでの間、相続人は信託財産を適切に保管し、引き渡す義務を負います。
Q3. 後継受託者がいない場合は誰が選任しますか?
信託契約に規定がない場合は、原則として委託者と受益者の合意により選任します。合意が得られない場合や委託者が判断能力を失っている場合などは、裁判所へ新受託者選任の申立てを行うケースもあります。
家族信託のご相談は井関司法書士・行政書士事務所へ
受託者の死亡に伴う新受託者の選任、不動産の受託者変更登記、また将来に備えた信託契約内容の見直しなど、家族信託に関する手続きには専門的な知識が必要となります。
当事務所では、ご家庭ごとの事情に寄り添い、丁寧なサポートを心がけております。家族信託でお困りのことやご不安な点がございましたら、まずは一度お気軽にご相談ください。
